労務問題

中小企業の法律問題の多くは、実は労務問題です。

  • 退職した社員が、過去の残業代を請求してきた
  • パフォーマンスが低い従業員を辞めさせたい
  • 従業員がうつ病になってしまった・・・
  • 解雇を言い渡したら、労働審判を申し立てられた

などなど。

当初は些細に思われた労働問題が、大問題に発展することがあります。

これらの多くは、経営者や管理者が、労働問題に「法律」を知らずに、自分の感覚で対応してしまうからです。

労働者を巡る法律は、経営者や感謝の「感覚」と必ずしも一致しません(例えば、できない社員は解雇して当然、等)。

特に、日本の労働法は、外国と比べても「労働者に有利」と考えられる部分が多々あるのです。

ですから、経営者や管理者の感覚は一旦横において、「法律ではどうなっているのか?」を弁護士に確認して頂いた上で、適切な対応をされることをお薦めします。

従業員を解雇する場合

従業員のパフォーマンスが著しく低い場合、経営者や管理者(マネージャー)はつい、「解雇して当然」と思いがちです。

しかし、今の日本の労働法制では、従業員をすぐに解雇するのは大変難しいのです。

いきなり「クビ」を申し渡してしまったり、不用意なことをしてしまうと、トラブルになる可能性がきわめて高いのが現実です。

このような場合は、下記のように、慎重に対応し、合意退職に持ち込むのが順当と言えます。

(1)合意退職に持ち込むのが基本

従業員のパフォーマンスが著しく低い場合でも、いきなり解雇するのは難しく、裁判所は、会社に対して、従業員のパフォーマンスが低いことを示す証拠を提出することを求めてきます。

パフォーマンスが高い、低いということを立証するのは大変難しいのです。

したがって、会社と従業員が合意して退職する合意退職がトラブルの防止としては有効です。

(2)指導・教育の実施

合意退職に持ち込むには、まず、パフォーマンスが低い従業員に対して、指導、教育をしてください。その際、指導、教育の証拠を書面として残してください。

(3)配転の実施

それでも、従業員のパフォーマンスが変わらない場合は、配転を実施してください。裁判所は、解雇に至るまで会社が考えられる手段を全てとったのかを重視します。

(4)退職勧奨の実施

それでも、勤務成績が変わらない場合は、降格、降給を実施すべきです。そして、降格、降給を実施する前に退職勧奨をしてください。
退職勧奨に応じるのであれば、退職金を上積みするということも有効です。家族構成に応じて金額を加算するべきです。

(5)合意書の作成

従業員が退職勧奨に応じた場合は、きちんと合意書を作成してください。合意書の文言については専門家に相談してください。文言に不備があれば、トラブルが再燃する可能性もあります。

残業代の未払い問題

中小企業において、労働法関連で心配される緊急事態としては、労働基準監督署の調査が考えられます。

労働基準監督署に駆け込まれる代表例は、残業代の未払い問題です。

匿名での申告も可能ですので、退職した従業員だけではなく、在職中の従業員による申告も考えられます。

労基署の是正指導に従わなかった場合、刑罰に処せられる可能性があります。

労働基準監督署によって是正指導がなされるのは、 3ヶ月~時効成立(2年間)分で、ときどきによって様々ですが、 300万円を超える支払いが突然命じられることも十分にあり得ます。

(1)是正勧告とは?

是正勧告とは、労働基準監督署による警告書です。行政指導には強制力がないので是正勧告には従わなくても良いと思われるかも知れませんが、労働基準法の中に懲役又は罰金というペナルティーが設けられており、是正勧告に従って是正しなければ、書類送検となり、罰せられる可能性があります。

(2)労働基準監督署(労基署)への対応

これまでの当事務所の経験からしても、正直に申し上げて、労基署が調査に入り、様々な資料を入手した後では、会社側にできることはかなり限られます。
何が主張する事ができ、何が主張しても無駄で心証を悪くするだけなのか、冷静な判断が必要です。このような場合、まずは弁護士にご相談下さい。

(3)従業員または元従業員から未払い残業代を請求された場合

未払い残業代が発覚するのは殆どの場合、従業員または元従業員から申告です。いきなり労基署に駆け込まれるケースもありますが、個別に、会社に対して未払い残業代を請求してくるケースもあります。このような場合も、まずは弁護士にご相談下さい。

従業員のうつ病(メンタルヘルス)の対応

近年、従業員のうつ病が増加しています。その場合、多くとられる手段が、休職です。

休職制度については、法律上の制度ではありませんので、それぞれの会社の就業規則によって、内容には違いがあります。就業規則にない場合には、従業員に体職させる義務はありません。

ただ、休職制度を設けることは、会社側にとってもメリットがあります。

従業員が、病気等で労務出来ない状態となれば、通常は解雇です。

ただ、 うつ病だからといつてすぐ解雇してしまうと、うつ病は、「会社でのパワハラによるものであるため、労災だ」と主張されるなど、無用な紛争を生じます。
そのため、まず休職させ、様子をみるという扱いをとることができます。

就業規則に、「休職期間満了時に復職できない場合には、自然退職」と規程しておけば、解雇というドラスティックな手段をとらずとも、スムーズな労務管理を行うことができます。

では、休職中、従業員にどの程度の補償をしなければいけないのでしょうか。

法律上、給与を支払うことは要求されていませんので、支払う必要はありません(業務上の疾病ではない場合を前提としています)。

会社が支払わなくても、健康保険から、傷病手当金の支給がされますので、従業員の生活保障について、会社から手当をする必要は、一般的にはないといえるでしょう。
逆に、手厚い保証をすると、従業員が、うつ病という客観的にわかりにくい症状で、体職を希望するというモラルハザードの恐れがあります。

休業期間満了時、従業員が復職を希望した場合に認めなかつた場合、うつ病からの復帰は客観的に確定しにくいことから、紛争が生じる恐れがあります。従業員と、会社側の復職に対する意見が異なる場合には、紛争を未然に防ぐため、弁護士等専門家に相談されることをお勧めします。

労働審判を起こされたら

近時、個別の労働問題においては、労働審判を申し立てられるケースが増えています。

(1) 労働審判とは

労働審判制度とは、労働関係について裁判官1名と労使の専門家2名で構成する委員会(労働審判委員会)が3回以内の期日で審理し、調停による解決を試み、調停が成立しない場合には審判を行う制度です。

また、3回以内の期日で審理ということになっていますが、事実上の結論がほぼ1回の審理で終結する、スピード審理が想定されています。

(2) 労働審判の申立書が届いたら

そのため、労働審判では、申立書が届いてからの約lヶ月の間で、事情聴取、陳述書作成、主張書面作成、当日の受け答えのリハーサルまで行わなければいけません。

企業側の、準備の時間がなかったという言い訳は通用せず、冷たい対応をとられますので、入念な準備が送要です。そのため、申立書を受け取った場合には、直ちに弁護士にご相談ください。

(3)調停がまとまらない場合

第3回期日に、審判が口頭で告知されます。審判に対して、当事者は2週間以内に裁判所に異議を申し立てれば、労働審判はその効力を失い、申立時に遡って、地方裁判所に訴え提起があったものとみなされます。

労働審判を起こされたら、できるだけ早い段階で弁護士に相談されることをお勧めいたします。

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