企業再生は当事務所が注力している分野の1つです。
特に当事務所では、企業再生において極めて重要な要素である、銀行をはじめとする金融機関対応を得意としております。
当事務所の経験から言っても、企業再生の鍵を握るのは多くの場合、銀行などの金融機関です。
- 資金繰りに行き詰まった
- 手形が不渡りになりそうだ
このような場合、多くの経営者は、やむにやまれず法外な金利の金貸しから借金をしてしまい、その結果、会社が立ち行かなくなってしまう、といったことがあります。
その前に、銀行をはじめとする金融機関と交渉すべきです。
また、金融機関との交渉が行き詰った場合でも、企業再生の方法は色々あります。
多くの経営者は、経営のプロではあっても、資金繰りに行き詰った際の対応は不慣れですし、選択肢を認識されていないことが多いのです。
このような状況に陥った場合、客観的な手助けができる弁護士に相談することをお薦めします。
リスケジューリング
意外に思われるかも知れませんが、資金繰りの窮地に陥った企業がまず検討すべきは、銀行への返済のリスケジューリングです。
リスケジューリングとは
リスケジューリングとは、金融機関から融資を受ける場合などに約束した支払条件を、銀行との話し合いによりそれまでの条件より緩く変更することです。
例えば、
- 月額支払額を減額する
- 支払期限を延長する
などです。
平成21年12月に施行された金融円滑化法により、金融機関が繰り延べに応じてくれる可能性は飛躍的に高まっています。
支払いを延期するには、銀行の担当店に出向いて実情を説明し、理解を得る必要があります。
中小企業の場合、当事者だけで銀行に出向くと、説得されてしまうことも多いので、弁護士にも同席してもらい、弁護士から事情を説明して、理解を得るのが有効です。
ただし、リスケは緊急避難的に時間を確保するための手段にすぎません。
リスケにより、時間を確保できている間に、経営不振の根本原因である過剰負債の整理、あるいは売上不振を解決する必要があります。
特定調停
特定調停とは、支払い不能に陥るおそれのある債務者が、債務支払いのリスケジュールや債権カットなどを債権者と話し合うために設けられた制度で、地方裁判所と簡易裁判所で行っています。経済的に苦境に陥っている債務者であれば、個人だけでなく法人も利用することができます。また、特定の債権者とだけ特定調停の申立をすることもできますし(例えばデリバティブ債務を抱える債権者とだけ特定調停申立を行う)、合意も全ての債権者と一律で行う必要もなく、合意内容も当事者で合意できるのであれば特段制限もないので、柔軟性があります。
これまで、特定調停を法人の再生、整理で使うケースは非常に少なかったのですが、金融円滑化法が終了した今日、中小企業が金融機関に対して負担する債務の減免やリスケジュールで利用するケースがでてきました。日弁連も中小企業の再生手段として特定調停の利用を勧めています。これは、金融機関が完全な私的整理では合意が得にくい状況から、裁判所が関与する私的整理手段として、特定調停のメリットを生かす必要があると考えているからです。
特定調停は、経済的に苦境に陥った債務者が、相手方となる債権者を特定して申立てることから手続きが開始されます。期日には、債務者と債権者が出頭し、双方の意見を調停委員を介して伝え、どのような案であれば双方の合意が得られるか探っていくことになります。なお、債権者の数が多くなると、債権者毎に意見が異なってくる可能性があり、その場合は全体合意ではなく個別合意を目指すことも出てきます。
合意に至った場合、合意内容を調停調書にしますが、債務の支払いがある場合、執行力が付きますので、現実に支払い可能な案で合意する必要があります。交渉の過程では、中小企業の再建計画案を作成したり、支払計画を示す必要があり、財務及び法務両面の見地から合理的かつ公正な案を作成する必要があります。
第二会社方式(会社分割)
第二会社方式とは、過剰債務に陥った中小企業が、会社分割等で新会社を設立し、新会社が残したい物と一部の負債を引き継ぎ、旧会社は大部分の債務とともに整理するやり方を言います。
銀行は、法的手続を経ないで、債権放棄に応じたり、債権の一部免除に応じることはできないので、このような第二会社方式を使って実質的に債権カットを実現することができます。
なお、過剰債務に陥った中小企業が、銀行に対して事前に何ら通知、催告なく、突然、会社分割等で第二会社を設立し、旧会社に全ての債務を残し、新会社で本業を継続するといったやり方を取っているケースもありますが、このような場合は銀行から相当に強硬な方法で反撃を受けることを覚悟した方が良いでしょう。
銀行からの反撃としては、債権者破産の申し立て、会社分割の無効の訴え、新会社への事業譲渡について詐害行為取消しなどです。
実際に、相当乱暴な会社分割による第二会社方式が濫用的会社分割として中小企業側が裁判で敗訴している例は最近非常に多いです。
そもそも中小企業が銀行から裁判を起こされるだけでも費用や労力が相当かかりますから、銀行から裁判を起こされる可能性のある方法は得策ではないでしょう。
そうすると、第二会社方式も、後述の中小企業再生支援協議会(いわゆる「支援協」)を使うか、銀行と協議しながら経済的合理性のある案を策定して了解を得るかのどちらかということになるでしょう。
なお経済的合理性のある案とは、法的整理になった場合よりも銀行にとって多少なりとも有利な案を策定するということです。すなわち法的整理になった場合に返せる金額以上の債務を新会社が引き継いで支払っていくというやり方です。このスキーム構築には、法律と会計の知識が必要なので、専門家と相談しながら進めて下さい。
中小企業支援再生協議会
中小企業支援再生協議会(以下「支援協」と言います)とは、中小企業庁の監督の下、中小企業の再生のための相談を受けたり、再生計画案の策定を支援したりする公的な機関です。
東京でも、東京商工会議所の中にあります。
支援協の活動内容は、HPで確認できます。
主に、専門家(弁護士、公認会計士、再生支援の経験がある専門家など)が再生計画案を策定して中小企業を再生させる活動をしています。
支援協を利用するメリットは、
ⅰ中小企業の再生の専門家に再生計画案を作成してもらえる
ⅱしかも費用の半分を支援協が負担してくれる
ⅲ公的な機関が間に入るので金融機関の同意が得やすい
などが挙げられます。
支援協では、まず窓口での相談で対応します。これを1次対応と言います。
次に、一次対応で、再生計画案を策定するのが適当と判断した場合、再生計画案を策定します。これを2次対応と言います。
なお、1次対応の中で中小企業の再生支援を行うこともあり、これを1・5次対応と言います。
支援協の活動のメインは、2次対応になりますが、過剰債務を負った中小企業の再生支援のスキームとしては、第二会社方式が主流です。
すなわち過剰債務を負った中小企業から、残すべき事業及び財産と一部の負債を切り離して新会社に移転し、債務を負っている旧会社は破産ないし特別清算で処理するというスキームです。
民事再生
民事再生は、支払いに窮した中小企業が債権者の過半数以上の同意を得て債権カットを裁判所を使って実現する方法です。
裁判所を使った法的手続なので、透明性及び公平性が担保されているため、私的再生、私的整理に比べて銀行の同意を取り付けやすいといったメリットがあります。
民事再生手続をとれば、債権者の同意を得ることを条件に、負債を大幅に圧縮することが可能になる場合がありますし、圧縮後の負債については、10年の内に元本を延べ払いする方法をとることができます。
しかしながら、この申し立てには、予納金と弁護士費用あわせると最低でも1000万円以上のお金がかかります。
そして、原則として取引先債権も支払い停止や債権カットの対象になるため取引先に迷惑がかかります。
そして何よりも民事再生の申し立てをすると、世間一般では「倒産」と言う眼を見られるので、風評被害で取引が縮小して結局倒産してしまうといった事態になりかねません。
中小企業が民事再生の申し立てに二の足を踏むのは、前記のようなデメリットがあるからでしょう。
実際に、民事再生の申し立てをしても、最終的に再生の認可までたどり着かずに結局破産に至ってしまうケースが少なくありません。
帝国データバンクの最近のデータでも、民事再生の申し立てをした会社の4社に1社の割合で会社が消滅しているとの情報があります。
仮に、弁護士に委任して民事再生の申し立てをする場合でも、再生の画が描けるのかを十分に検討してから準備に入るべきでしょう。
破産手続き
破産は、過剰債務に陥って支払に窮した会社が残っている財産を債権者に案分配当して最終的には会社をなくす方法です。
会社が自己破産の申し立てをする際は、連帯保証人である社長も一緒に自己破産の申し立てをします。
私が破産で処理した方が良いと思うケースは、本業が赤字で見通しが暗いケース、社長も事業を継続する意欲がなく後継者もいないケース、社長が精神的ストレスから免れるために破産による免責を得た方が良いケースです。
再生コンサルタント
再生コンサルタントとは、資金繰りに窮したり、過剰債務の支払いに悩む中小企業にアドバイスしたり、場合によっては銀行と交渉することを生業としている人達のことで、銀行出身者であったり、弁護士以外の資格を有していたりします(例えば、中小企業診断士)。
最近、このような再生コンサルタントが、中小企業の再生と称して、明らかに法的に責任を問われるであろうスキームを提案したり、債権者から濫用的会社分割とか詐害行為として訴訟を起こされるような乱暴なスキームを提案して、法外な費用を請求しているケースを見かけます。
弁護士であれば、法的知識を有していることは当然として、法的な交渉事もできますし、単なる私的整理だけでなく、裁判所や公的機関が関与した再生スキームの構築や、場合によっては法的整理も含めた、様々な選択肢の中から適切なスキームを提案できます。
しかしながら、弁護士でない再生コンサルタントは法的な交渉は弁護士法上禁止されていますし、債務者である中小企業の代理人として民事再生、特定調停、再生支援協議会のスキームの申立に関わることができません。
このように、再生コンサルタントの場合、選択肢が限られているため、相当無理なケースでも私的整理に何とかまとめようと乱暴なスキームを提案することになるのです。