中小企業のための訴訟対応

1 はじめに

当事務所は、平成13年8月に所長弁護士本杉明義が開設し、訴訟を含めた紛争対応並びに解決を主な業務として行っています。

上場企業のような大規模な企業であれば、日常業務において紛争予防や紛争対応の見地からコンプライアンス体制を構築し、日々の行動を文書として残しておくといったことが行われていますが、中小企業は、訴訟は滅多にあることはではなく、普段の日常業務において将来の紛争予防や紛争対応の見地から対策を練っていることは稀だと思います。

しかしながら、中小企業の場合、企業の規模に照らして大規模な訴訟を提起されたり、高額な売掛金が未回収に終わったりすると取り返しがつかない大きなダメージを受けることになります。

また、最近のように中小企業でも業務内容がグローバル化していると、紛争が国境をまたぐこともあり得ます。そこで、以下、訴訟を前提とした対応策をまとめてみました。

2 訴訟前の準備段階

いきなり裁判所から訴状が届いたり、何の前触れもなく訴訟提起することはむしろ稀で、通常その前段階があります。ここで、なるべく早目に弁護士に相談をすることをお勧めします。

例えば、相手方から弁護士名で内容証明郵便による通知書が届くことがあります。この場合、法律や紛争解決の素人である当事者が書面で回答してしまうことがままあるのですが、書面で回答した内容は後で訴訟になった場合に否定できなくなります。

訴訟は、後でご説明しますが、相手の手の内を読みながらどこでどのようなカードを切るかといったゲーム的な要素があります。この点に意を払わずに、最初から全てのカードを切ってしまったり、後で自分の首を絞めてしまうような内容の文書を出してしまうケースをよく見かけますが、弁護士に相談すればそのような愚を犯す危険性を減らすことができます。

また、こちらから訴訟提起する場合でも、訴訟提起は最終カードとして持っていて、それをカードとして交渉による解決を目指す方法があります。時間や労力などを考えた場合、訴訟での解決を図るよりも交渉で解決した方が良いのが一般なので、訴訟提起の準備を進めるのと同時並行で交渉により解決を目指すことができます。

さらに、訴訟の場合、当方の主張が立証できないと勝てないので、証拠が非常に重要になります。訴訟提起を意識している場合、なるべく早目に重要証拠を確保する必要があります。証拠は、時間が経てば経つほど、収集しにくくなります。

3 訴訟提起

① 原告の場合

ⅰ 訴状の作成及び証拠の収集

ア 事件関係者からのヒアリング

いかなる請求権を根拠とするにしても、事実経過を把握することなく、請求権を根拠づけることは不可能です。例えば、契約書を理由とした請求権でも、契約書を作成した経過を把握する必要があります。ましてや、紛争となるケースでは、請求権を直接根拠づける書証(紙に書かれた証拠)がない場合が殆どですので、自らの言い分の正しさを裁判所にどう分かってもらえるかが重要になります。その場合、事件関係者から事実経過をヒアリングして把握する必要があります。また、人間の記憶は曖昧でいい加減ですので、当時の記録などの記憶喚起に役立つ資料があると助かります。なるべく、当時の記憶を正確に再現するためには、日常業務においても日報や訪問記録などを取っていると有利になります。

イ 証拠の収集

裁判では、お互い言い分が真っ向から食い違うことが少なくありません。同じ事実をとっても、当方と相手方で言い分が全く違うことも珍しくありません。そこで、裁判所に当方の言い分が正しいと思ってもらうためには、自分の言い分を根拠づける証拠が必要になってきます。裁判では、証拠の有無が大きく結果を分けることになります。証拠は自分が持っている物以外でも、相手方当事者が持っている物や第三者が持っている物でも証拠になります。また、お互いの言い分が水掛け論にならないため、会話を録音したテープも重要な証拠となります。

ⅱ 訴訟提起

裁判所に訴状と証拠を提出して訴訟提起します。ここで重要なのは管轄です。管轄を間違うと訴訟提起自体が不適法却下となってしまいます。また、遠隔地が管轄裁判所であったり、相手方の本店所在地などにも管轄があって移送される可能性がある場合は注意が必要です。訴訟は争いがあると1年以上かかるのは一般なので、遠隔地の裁判所に管轄があると弁護士の旅費・日当だけでも相当の費用がかかるからです(ただし、現行民事訴訟法では、電話会議の利用が認められているので多少緩和されている)。

② 被告の場合

ⅰ 訴状の送達

裁判所から訴状等が入った書類を受領することから始まります。封筒には、訴状、証拠と呼び出し状(第1回口頭弁論期日)と答弁書の提出期限や書き方などを書いた書面が入っています。第1回口頭弁論期日に答弁書も提出せずに欠席すると相手方の主張を全部認めたことになって敗訴判決を受けることになってしまいます。なので、答弁書は簡単でも良いので第1回口頭弁論期日に間に合うように提出する必要があります。内容に関する認否、反論は第2回期日まで提出すれば間に合います。

ⅱ 答弁書の作成、証拠の提出

請求の趣旨に対して「棄却を求める」旨の答弁書を提出する場合と、請求原因に対する認否、反論まで記載した答弁書を提出する場合があります。一般的には、訴状の送達を受けてから第1回口頭弁論期日までに十分な準備が整うには時間的な余裕がないので、前者で済ませるケースが多いです。証拠も認否、反論を準備書面で提出する際に提出すれば足ります。なお、現行民事訴訟法は、適時提出主義(156条)が取られているので、重要な主張や証拠が後から提出されると時機に遅れた攻撃防御方法として却下される可能性があります(157条)。

4 訴訟の前半

① 主張の整理

訴訟の前半は、当事者の主張を整理したり、お互いの主張を根拠づける証拠を提出する手続きが行われます。争点が多岐にわたったり、事案が複雑な場合、弁論準備手続きに付されることもあります。弁論準備期日は、法廷でなく別室の狭い部屋で行われ、裁判官とも30分~1時間にわたって争点について議論を行うことがあります。法廷ですと、限られた時間(1~2分程度)でしか話ができませんが、弁論準備手続きの場合は色々な話をすることができます。

なお、主張整理する際、相手方に釈明を求めて疑問点を浮き彫りにするやり方は実務でよく行われる有効な方法です。

② 証拠の提出

証拠については、物証と人証がありますが、裁判所が重視するのは物証です。物証の中でも重要なのは書証で、特に当事者のサインや押印のある契約書などが重要です。書証は、手持ちの中から提出する場合が原則ですが、相手方や第三者から提出させることもできます。特に証拠が相手方に偏在する場合、いかに証拠を収集するかが重要になってきます。なお、訴訟提起する前に相手方の手持ち証拠を確保する手続きを証拠保全と言います(241条)。ただし、我が国の証拠保全手続きは、米国のディスカバリー制度ほどの強い効果はないので、やり方いかんでは証拠収集が不十分に終わる可能性があります。この点は弁護士によくご相談下さい。

5 訴訟の後半

① 陳述書提出、人証の申立て

争点整理が済んで、物証の提出も概ね終わると、次に人証の取り調べに移ります。そして、双方が人証の取り調べを求める人の陳述書を作成することになります。主張は、弁護士が評価的な要素を加えて準備書面という形で提出するのに対し、陳述書は人証予定者が生の事実を書面で伝える役割を持ちます。特に東京地裁のように尋問時間が比較的に短く設定される場合、陳述書の内容が重要になってきます。

② 証拠調べ期日

実際に、人証の取り調べを行う期日です。通常、主尋問(申請者側代理人からの質問)→反対尋問(相手方代理人からの質問)→補充尋問(裁判官からの質問)の順序で行われます。証拠調べ期日の前には、どのような話を尋問で行うか、相手方弁護士からの質問にはどう答えるかなどといった準備が必要です。当日の尋問では、緊張して思ったことが言えなくなってしまうこともありますので、リハーサルが必要です。

6 訴訟の終了

① 判決か和解か

証拠調べ期日が終わると、裁判所から和解勧告があるか、終結に向けて最終の口頭弁論期日が指定されます。判決になる場合、双方がこれまでの審理をまとめた最終準備書面を提出するのは一般です。この段階になると、裁判官の心証も概ね固まってきます。よって、このタイミングで出された和解案は裁判官の心証に基づいた内容であることが多く、和解が成立するのもこのタイミングであることが多くなります。

② 判決に対する不服申し立て

判決が出て内容に不服がある場合、上級審裁判所に不服申し立てができます。地方裁判所で下された判決に不服がある場合、高等裁判所に控訴を提起します。

7 上級審

① 控訴審

控訴審は、事実審であり、第一審の続審ですので、新しく証拠を提出することもできますし、時機に遅れた攻撃防御方法でなければ新たな主張も行えます。しかしながら、第一審で判決が出ていますので、控訴審裁判所は、原審判決に問題がないかどうかを中心に審理します。この点、控訴提起から50日以内に提出する控訴理由書が極めて重要です。控訴理由書の出来不出来で事件の9割方が決まってしまうといっても過言ではありません。そして、第1回口頭弁論期日までに、控訴理由書、相手方の反論書、双方からの追加の提出を済ませて、それ以上特に審理することがなければ、原則として1回で終結します。このように、控訴審は、第一審と違って短期で終わることが特徴です。のんびり構えていると、あっというまに終わってしまいます。

② 上告審

上告審は、憲法違反や判例違反といった、法的に問題があるか否かを判断する裁判所であり、事実認定の不服は見てもらえません。よって、事実認定の争いが勝敗を分けるような事案の場合、事実上、控訴審裁判所が最後と考えた方が良いです。

8 最後に

訴訟で大切なのは、事案の筋とその筋を裁判所にどう見せるかです。訴訟活動に優れた弁護士は、筋読みとその筋の裁判所への見せ方が上手です。このようなテクニックは、多数の事件での活動を通じて磨かれるものです。机の上での勉強だけではそのようなテクニックは身に付きませんし、法律的な知識が豊富であっても訴訟活動が得意であるとは限りません。また、訴訟活動は最終的には裁判官を説得する活動ですし、和解で終わらせる場合、相手方との交渉も必要になってきますので、交渉テクニックも重要です。

訴訟対応にお困りなら、金融取引という専門分野柄、訴訟対応に明るい麹町大通り総合法律事務所が中小企業の皆様の味方になります。費用などもご相談させていただきますので、どうぞ一度お気軽にご相談ください。

 

当事務所が裁判実務に強い理由

裁判実務に精通するためには数多く裁判実務の経験を積む必要があります。訴訟活動は千差万別であり、弁護士によってやり方が異なります。同じ事件を扱っても裁判の進め方は弁護士によって様々であり、弁護士の力量によって結果が変わってくることも当然にあります。

なぜ、このように訴訟活動が弁護士によって変わってくるかというと、裁判実務は決してマニュアル化できない仕事であり(過払いや交通事故のような定型化した仕事は別です)、弁護士が長年にわたる裁判実務を通じて会得した経験が生きてくる仕事だからです。そのような経験から会得した「勘所」のような物は書物で表すことが難しく、自分で裁判実務を通じて会得するしかないのです。

私(本杉)は弁護士になって20年になりますが、一貫して裁判実務を仕事の中心としてきました。私が担当した事件はおそらく400~500件程度になると思います。そのような数多くの民事訴訟を経験する中で、相手方弁護士のやり方も多数見てきましたし、セカンドオピニオンとして担当弁護士のやり方も見てきました。

裁判実務に「強い」と言えるためには、勝訴判決の数というのも一つの目安ですが、例えば債権回収事件のような相手方が殆ど反論できない事件を多数扱っていれば勝訴判決の数が多くなりますから、それだけでは分かりません。裁判実務に「強い」と言えるためには、勝ち筋の事件は落とさない(確実に勝つ)、負け筋の事件でも何とか勝負に持ち込んでそれなりの結果を出す(何とか和解に持ち込む)ことが必要です。民事裁判の多くの事件が和解で解決されていることを考えると、どの程度有利な和解に至っているのかも重要です。

書面作成の技術

まず、裁判実務に「強い」弁護士は、書面が簡潔明瞭で分かり易く、かつ説得力があることが必要です。裁判官は常時手持ち事件が数百件にもなり、物理的に1件当たりにかけられる時間には限界があります。なので長くて分かりにくい書面はまともに読んでもらえません。

「腑に落ちる」ストーリーを構築する技術

次に、訴訟活動で展開するストーリー(大筋)に説得力がある必要があります。裁判実務は要するに裁判官を説得する作業であり、裁判官も人間ですから最終的には説得力のあるストーリーに組することになります。人によってはこれを「腑に落ちる」と言い方で表現します。いくら裁判官が要件事実論を叩き込まれているといっても、要件事実論だけで結論が出る事件は実際にはなく、必ずどちらかのストーリーを採用しなければなりません。そして裁判官が採用するストーリーは、一貫性があり、合理性があり、自然なストーリーなのです。このような説得力のあるストーリーを裁判の初期の段階から展開するには、多数の裁判実務の経験が必要です。

弱点を発見する技術

また裁判実務は相手方との戦いでもありますから、相手の弱点がどこなのか、逆に当方の弱点はどこなのかを早目に察知できた方が有利です。このような能力も多数の裁判実務の経験を要します。

最近、私(本杉)が実際に経験したのですが、私の所にセカンドオピニオンでいらっしゃった相談者の方は、担当弁護士が裁判の終盤に入った段階で、ある証拠を見て「負ける」と述べるようになり、心配になって私の所に相談にいらっしゃいました。しかしながら、私は別の証拠を見て、それだけで勝ち筋の事件だと判断し、担当弁護士が指摘する証拠は上手くかわすことさえできれば結論が変わることはないだろうと考え、その旨を相談者の方に説明し、最終的には相談者の方の判断で私が依頼を受けることになり、最終的には私の読みどおりの理由で勝訴することができました。

このように、同じ弁護士ではあっても、事件の見方や証拠に対する評価の仕方が全く違うのだということは、私にとってもかなり意外でしたが、弁護士の人数を増やすためにロースクール制度を設け、司法試験の合格者数を大幅に増やした結果、同じ弁護士といっても玉石混同なのだなと実感させられた件でした。

 

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