「コンプライアンス経営」
というと難しい話のように聞こえますが、実はどんな企業にとっても非常にありふれた問題で、かつ重要な問題です。
例えば、
- 営業マンが営業成績を上げたいがために、過剰なセールストークを使ってしまう
- 決算対策として、取引先に架空の取引をお願いし、決算後に返品処理する
- 見掛けの利益を出すため(或いは出さないため)に、会計処理をごまかす
上記は一例ですが、決して、一部の悪徳な企業や悪徳社員に見られることではなく、むしろ、頑張っている企業、頑張っている社員だからこそ、という事例も多いのです。
下手をすると、かつては「やり手」と賛美されたような役員や社員の行動が、最近ではコンプライアンス違反として問題視され、大きな社会的責任を負わなければならないのです。
しかしながら、上記のようなルールを無視した利益追求は、短期的には企業の業績アップに繋がるかも知れませんが、決して永続的な繁栄をもたらしません。
永続的繁栄を渇望される企業、経営者にとって、コンプライアンス経営への取り組みは必須であると言えるのです。
急激な売上拡大や、これまでの売上・利益の維持にこだわりが強いが故に、「危なっかしい面がある」「問題があるかも知れない」と感じられる場合は、顧問弁護士に相談する等して、予防されることをお勧めします。
コンプライアンスプログラムの作成に当たっては、
- 企業活動の実態を把握している事
- 法律的な問題点を理解している事
が必要です。
特に財務・金融関係は、弁護士の側にも業務への理解がないと、コンプライアンスプログラムの作成は難しいと思われますが、当事務所は財務・金融も専門としておりますので、営業・販売から財務・金融にいたる企業動全般を網羅したコンプライアンスプログラムや、行動指針、コンプライアンス規定の作成等を行う事が可能です。
不祥事対応・内部統制
世間を騒がせる、企業不祥事は後が絶ちません。
新聞紙上を騒がせるような不祥事は主として、大企業・著名企業のものですが、「うちのような中小企業には関係ない」という訳ではありません。
中小企業にとっても、不祥事は命取りになりえます。
実際に、初期対応の基本を疎かにした結果、存続の危機に陥ってしまった企業も少なくありません。
もちろん、大手企業や著名企業においては、グループ企業のほかに取引先や提携先の不祥事に巻き込まれてしまうリスクも増しており、企業として、きちんとした不祥事対応の体制を構築し、実際に機能するよう準備しておくことは重要な経営課題のひとつです。
(1) 不祥事の未然防止
不祥事を防止するためには、何よりも、役員・社員に知識とモラルの両面でコンプライアンス教育を行うことが重要です。
概念的な話ではなく、例えば、
「セールストークにおいて何を言ってよくて、何がよくないのか」
「どのような経理処理が不正に当たるのか」
といった具体的な教育を行う事が重要です。
また、不祥事が発生しにくく、且つ未然防止されるための体制構築、いわゆる内部統制の体制構築を行っておくことも必要です。
不正な契約がないかの抜き打ちチェック機能を設けたり、不正な経理処理が行われないように複数チェックが働く体制を構築します。
(2) 不祥事発生時の対応
不祥事を未然に防止する事がもっとも大切ですが、いざ発生してしまった不祥事への対応への対応は、企業の生死を左右します。
弁護士にご相談頂いた場合、事実関係の調査の方法を検討し、また違法行為・不正行為に関する法的な判断を行います。
その上で、弁護士は貴社の長期的な利益を考えた上で、不祥事の通知・届出・公表をどのように行っていくかをアドバイスさせて頂きます。
もちろん、これには警察への通知、マスコミへの公表・会見の仕方・タイミングなども含まれます。
「不祥事と思われる事態」が発生した際は、直ちに弁護士に相談されることをお薦めします。
残念ながら、顧問弁護士にすら隠そうとされる事もあるようが、社外に分からないように、社内で穏便に処理してしまおう、というのが最も危険であることは言うまでもありません。
企業不祥事
1 みずほ銀行の暴力団不正融資事件、食品及びホテル・飲食業界の食品偽装問題など、最近、企業の不祥事発覚が頻繁に起きています。これら事象は氷山の一角で、実際にはまだ発覚していない企業不祥事が水面下で多数埋もれていることは間違いありません。
2 企業不祥事は無いにこしたことはなく、未然に発生を防止することに最大の努力をすべきです。しかしながら、長年にわたる慣行や管理体制の不備などが原因で不祥事が起こってしまうことを100%防止することは実際には不可能です。そのため、実際に起きてしまった場合の企業のあり方が問われているのです。
3 最近、頻発している食品偽装の件を例に挙げると以下のとおりです。
① まず、食品偽装があった場合、適用される法律としてはJAS法、景品表示法、不正競争防止法、さらには刑法(詐欺罪)などがあります。JAS法第19条の13の2によれば、業者は一定の基準で定められた品質表示の基準に従って農林物資の品質に関する表示を行わなければならず、故意か過失かを問わず、品質表示が基準に従ってなければJAS法違反になります。
② JAS法が定める品質表示基準違反の有無は、一般に監督官庁の立入検査で判明します。そしてJAS法違反が判明した場合、指導が行われるか公表が行われるか判断されます。公表されると企業不祥事として問題が公になりますので企業は相当大きなダメージを受けることになります。また、悪質な場合は刑事罰が科されることもあります。
③ このように法律違反の有無の精査や監督官庁との対応方法は不祥事発覚直後に早急に検討すべき問題です。その場合、専門の弁護士にご相談下さい。安易な調査や判断、監督官庁の対応方法の誤りは企業に相当大きなダメージをもたらす危険がありますので、素人的な発想での対応は危険です。
④ そして、専門家も交えて、事実の解明と原因の調査を行い、その結果をなるべく早く監督官庁に報告し、今後の再発防止策を講じるべきです。不祥事を隠したり、詭弁を弄してごまかそうとすると、企業イメージを大きく損なう危険があります。
第三者委員会
1 はじめに
1 上場企業や公益法人などの利害関係者(ステークホルダー)が多数いる法人や公益性を有する法人の場合、内部で不祥事が発生すると、「第三者委員会」(「外部調査委員会」「特別調査委員会」)などを設置して原因と責任の所在を究明し、再発防止策を提言することが多く行われています。確かに、社内の関係者や顧問弁護士等とは違う利害関係がない中立公平な立場の専門家に原因や責任の所在を調査してもらい、今後の経営方針の策定に生かしていく作業は非常に有意義であり、弁護士のような専門家が正に経験を生かせる仕事だと思います。しかしながら、ときに第三者委員会のメンバーを選任する際に現経営陣の意向を汲んだ人選が行われ、経営陣の責任回避の手段として利用されることも見かけます。このような偏った人選による第三者委員会の意見には何ら説得力がなく、ひいては専門家としての信頼をも失いかねません。
当事務所では、実際に公益法人における資産運用に関する第三者委員会のメンバーとして調査した活動経験があり、それに基づいて、第三者委員会のあり方及び企業における活用の仕方について述べさせていただきます。
2 委員会のメンバーの選定
委員会のメンバーの選定は極めて重要であり、メンバーの資質や能力などによって第三者委員会の調査の精度や説得力が大きく変わります。また、限られた時間の中で、適切なメンバーを選定する作業は時に困難を極め、メンバーの選定自体が派閥や勢力争いの様相を見せることも少なくありません。以下、メンバーを選定する際の留意点を挙げます。
① 中立公正性
メンバーの選任の際には、どうしてもこれまで付合いのある弁護士や公認会計士の中から選ぶという形になりやすく、かつ顧問弁護士や顧問会計士のように利害関係がある専門家を対象から外すとなると候補者は非常に限られてしまいます。その結果、現経営陣の知り合い経由で依頼することになり、中立公平性を疑われるような人選になってしまうことがあります。そうすると現経営陣の責任追及に発展しかねない不祥事の場合、どうしても責任がない方向で調査や提言が行われてしまうバイアスがかかってしまいます。このような第三者委員会の報告は、単に現経営陣が自らの責任がないことを示すための意味しかなく、報酬の支払い自体が現経営陣の善管注意義務違反の疑いを生じさせます。よって、第三者委員会のメンバー選定に当たっては、極力、現経営陣との人的な関係を絶った形で行う必要があります。
② 専門性
企業や法人の不祥事には様々な類型が存在し、弁護士も得意不得意の分野がある以上、当該不祥事の類型に沿った専門家を選任する必要があります。例えば、資産運用や金融取引に関する不祥事の調査や報告には、金融取引に関する知識、金融商品取引法等の専門法に関する知識、判例や紛争事例に関する知識・経験を要します。そのような専門知識のない弁護士では、精度の高い調査を行うことができず、結局、現経営陣に意を汲んだような中途半端な報告になってしまう危険があります。そしてこのような場合、著名な弁護士や名誉職的な地位にある人に委員長を頼み、他のメンバーは委員長に一任し、対外的に通りの良い形にして終わりにするということがあります。
3 調査の方法及び内容
① はじめに
調査は、裁判と同様に、証拠に基づいて事実認定を行い、認定された事実に基づいて原因や責任の所在について意見を述べるという形で行われます。そして、一般に、調査は限られた時間の範囲内で行うことが想定されているため、効率よく、上手く段取りを組んで行い、最終的には書面で報告する形で行われます。短期間で膨大な資料を読み込む必要も出てくるため、委員の下に何人かの専門家が付いて行なわれることもあります。
② 資料の収集及び読み込み作業
裁判でも同様ですが、調査はまず関連資料の収集と資料の読み込みから行われます。関連資料は企業や法人内部に保管されている物が殆どですが、関連部署と上手く連携を取って効率よく資料を収集する必要があります。また、時に責任を問われる可能性がある人が証拠を破棄、隠匿することもあり得ますので、速やかに重要証拠を保全する必要があります。収集した証拠は読み込み作業を行い、作成の経緯や意味について検討を加え、場合によっては関係当事者からヒアリングを行う等して事実の解明に努めます。
③ 関係者からのヒアリング
資料の読み込み作業と同時並行して、あるいは読み込み作業終了後、関係当事者に対してヒアリングを行います。関係当事者は、後に責任追及の対象にもなり得るので、必ずしも友好的な状況でヒアリングができるとは限りません。このような場合、関係者へのヒアリングの呼び出しや場所なども考慮し、可能な限り短時間で効率の良いヒアリングができるよう努める必要があります。また、ヒアリング内容が後で争いにならないように、録音しておく必要があります。
④ 事実認定
関連資料と関係者へのヒアリングに基づいて事実認定を行います。専門家として事実認定を行う以上、経験則に則って、かつ専門的な知見を生かして事実認定を行う必要があります。
⑤ 原因の究明と責任の所在
不祥事の原因を簡単に言い尽くすことは困難ですが、可能な限り原因究明に努め、直接な要因とそれ以外の要因、根本的な問題、重大な欠陥を洗い出す必要があります。また、責任の所在を明確にすることは関係者の立場に重大な影響を与えますが、割り切って言及する必要があります。
⑥ 再発防止策などの今後の提言
今後、同種の不祥事を起こさないため、どのような再発防止策を講じるべきか、の提言を行います。
⑦ 調査結果の報告
一般的には、調査した結果を「調査報告書」などの形で書面化します。
4 資産運用及び金融取引の不祥事に関する第三者委員会
① 例えばデリバティブ取引による資産運用の失敗に関する第三者委員会であれば、資産運用の内容を精査する必要があります。資産運用は金融機関で行われますので、まず取引を確認するために必要な資料を集める必要があります。例えば、証券会社での証券取引であれば、口座開設の際に作成される資料、証券取引の内容を記帳した帳簿(顧客勘定元帳)、金融商品の内容を把握するための資料(商品説明書、目論見書など)を集める必要があります。
② 次に、企業であっても公益法人であっても必ず資産運用に関する一定のルールがありますので、その内容を確認する必要があります。企業であれば当然ながら会社法上のルールを守る必要がありますし、それだけでなく内規で一定のルールが策定されています。また公益法人であっても寄付行為や規則などで一定のルールが定められています。
③ そして、取締役等の執行陣は会社法及び一定のルールを守る義務がありますし、公益法人でも同様です。実際に行われた取引内容が前記のルールに則って行われていたか否かを調査します。もし、ルール違反の疑いが濃い場合、関係当事者にヒアリングしてどのような認識で行っていたかを確認します。
④ 以上の調査に基づいて、資産運用の内容とそれに関する担当者及び責任者の責任の有無について法的見地から検討して結果を報告します。