労働基準法や労働組合法、男女雇用機会均等法、最低賃金法、労災保険法などの労働法規は、日本国内において営まれる事業に対しては、使用者・労働者の国籍を問わず、また当事者の意思のいかんを問わず、適用されます。したがって、日本国内で雇用されている中国人の方々にも、上記の日本の法律が適用されます。そして、これらの法律が適用されるのに正規雇用、非正規雇用の区別はありません。また、在留資格としての技能実習生にも、労働基準法や最低賃金法の保護が及びます。技能実習生も労働者として取り扱われますので、もし、あなたが「技能実習」という在留資格をお持ちであれば、上記の日本の法律が適用されます。
あなたが日本国内で働いているのであれば、日本人と同じように、労働保険(労災保険・雇用保険)や社会保険(健康保険・厚生年金保険)も当然、適用されます。もちろん、あなたは割増賃金支払請求権や不当解雇されない労働上の権利を裁判上、主張することができます。
⑴ 未払残業代について
ア 未払残業代とは
残業代は、労働基準法上、「割増賃金」と呼ばれています(労基法37条)。
会社は、労働者に対し、
② 1カ月の合計が40時間以上60時間までの時間外労働については、 通常の労働時間の賃金の25%以上
② 深夜労働については、通常の労働時間の賃金の25%以上
③ 1カ月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合には60時間を超える労働について通常の労働時間の賃金50%以上(ただし、この特別の割増率は、当分の間は中小企業には適用されません(労基法138条)。)④ 休日労働に対しては通常の労働日の賃金の35%以上の割増賃金を支払わなくてはなりません。
もし、あなたが休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働している、または、休憩時間を除き1日につき8時間を超えて、労働している、または深夜労働をしている場合、会社に対して割増賃金を請求できる可能性があります。
イ 証拠収集等
時間外労働の存在を証明するには、タイムカードが有力な証拠となります。もし、タイムカードのコピーをとるのであれば、とっておきましょう。タイムカードが無くても、手帳やシフト表、メールの送受信記録などでも、労働時間を証明することは可能ですから、まずは自分の労働時間を証明する証拠を収集してください。
ウ 計算・交渉
次に、弁護士があなたからいただいた労働時間の証拠を基に、前記アの計算式で割増賃金の計算をします。
もし、残業代が会社から全額支払われていなければ、会社に対して未払残業代を請求することができます。その場合、まずは、弁護士が会社に内容証明郵便を送付するなどして、任意で交渉をしてくれます。賃金請求権は、賃金支払日の翌日より2年間で消滅時効により消滅してしまいますが、弁護士が内容証明郵便を送付することで消滅時効を中断させる効果もあります。
オ 労働審判
次に、会社が任意に支払ってくれない場合、「労働審判」という手続を裁判所へ申し立てることになります。
労働審判は、労働審判官(裁判官)1人と労働関係の専門家である労働審判員2人で組織された労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理します。労働審判は、訴訟よりも短期間で終結しますから、当事者が話合いによる和解の解決の意思を有する事件ならばとても有効です。
もっとも、労働審判では、しばしば、残業したことの証明が難しいことがあります。労働審判でも話がつかず、審判の結果に納得がいかない場合には、民事訴訟へ移行することになります。
カ 民事訴訟
(ア)民事訴訟とは
民事訴訟とは私人間の紛争を裁判所が裁判によって解決する手続のことです。割増賃金支払請求の訴えを裁判所に提起することになります。
裁判においては、証拠に基づき、事実を認定します。労働審判に比べて、証拠がとても重要になります。したがって、民事訴訟を提起するには、自分の労働時間を証明できる証拠を収集しておく必要があります。
(イ)付加金とは
民事訴訟においては、裁判所は、会社に割増賃金義務があると認めた場合、裁量で、使用者に対して、一種の制裁として、使用者が支払わなければならない割増賃金と同一額の金額である「付加金」支払わせることができます。
キ 最後に
残業手当や営業手当など名目上の諸手当に、働いた分の残業代がきちんと含まれているのかは計算してみなければわかりません。1日8時間または週に40時間を超えて働いている方でしたら、ぜひ、弁護士に相談してみてください。
⑵ 解雇について
ア 解雇の種類
解雇には、大きく分けて三種類あります。
①普通解雇
普通解雇とは、就業規則に定めのある解雇事由に相当する事実がある場合に行われる解雇をいいます。
普通解雇の事由は就業規則に定められている必要があり、客観的に合理性があるか、解雇としての相当性があるか審査されます。また、普通解雇にあたって使用者は労働者へ30日前までの解雇予告、あるいは解雇予告手当ての支給が必要となります。一般的な理由の例としては、怪我や病気により労働できない状態、著しい職務怠慢、暴力や暴言などがあります。但し、それらは業務への影響や、注意・教育、突発性や合理的理由などを踏まえて十分検討された後に解雇が行なわれる必要があります。
②整理解雇
整理解雇とは、普通解雇のうち、会社の経営上の理由により人員削減 が必要な場合に行われる解雇をいいます。
整理解雇の合理性・相当性の判断には、「整理解雇の四要件」というものがあり、本当に人員整理の必要性があるか、解雇回避の努力義務を行なったか、被解雇者選定に合理性があるか、説明・協議は十分に行なわれたか、の4要件のすべてに適合していなければ有効にはなりません。
③懲戒解雇
懲戒解雇とは、就業規則上の最も重い懲戒処分が科されて行われる解雇のことをいいます。
懲戒解雇の場合、事前の解雇予告や手当の支給はされず、労働基準監督署長の解雇予告の除外認定により即時解雇となります。また、退職金の支給も多くの場合ありません。
イ 不当解雇
解雇は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と法律で定められています。たとえば、「体調が悪く連絡できないまま無断欠勤をした」といったやむを得ない理由があった場合や、単に「商品を壊した」「服装がだらしない」といった理由だけで解雇することはできません。
会社から解雇を言い渡されたり、退職せざるを得なかった場合には、弁護士に相談してください。解雇の無効を争う中で、会社側から金銭的な解決方法(解決金の支払)を引き出すことも可能です。
たとえば、「賃金仮払い仮処分」という制度を使えば、あなたは会社から給料をもらって当面の生活保障を確保したうえで、解雇の無効もしくは、不当解雇分のお金を取り戻すことが出来ます。弁護士に依頼することによって、解雇無効だけでなく、その期間の給料まで獲得してもらえるかもしれません。
ウ 解雇予告手当の不払い
前述したとおり、使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければなりません。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないのです。たとえば「明日から来なくていい」として即日解雇する場合は、30日分以上の解雇予告手当を支払わなくてはなりません。
もし、あなたが、即日解雇または解雇の予告をされて予告をされてから30日分以上の賃金が支払われていなければ、解雇予告手当不払いの可能性があります。その場合、弁護士に相談して解雇予告手当の不払いが存在するか確かめてみましょう。もし、解雇予告手当の不払いが存在したら、弁護士が内容証明文書を作成して会社に送付し、交渉をします。