弁護士が皆、裁判を主力業務にしているわけではない
企業法務といっても内容は多岐にわたります。契約書の作成やチェックといった社内法務的な仕事から、デューデリデンス、M&A、株主総会指導といった仕事もあります。他方、企業は色々な商取引に関連して紛争に巻き込まれる可能性が常にあり、その最たるものが訴訟です。
前者の仕事と後者の仕事では、弁護士に求められる能力やスキルが大きく異なります。前者は関連する法令をチェックして企業のニーズをどう実現するのかが問われ、関連する法令の正確な知識と企業のニーズを実現するビジネスセンスが求められます。しかしながら、後者は、様々な紛争の解決業務に携わった経験に基づき、法律の知識だけでなく生身の人間が関わる中で紛争をどうやったら有利に解決に導くことができるのか、訴訟になると裁判官がジャッジをするので裁判官がどのような思考を持っていて何を考えて結論を導き出していくのか、その過程でどのような活動を行えば有利な結論を導くことができるのかが問われます。
民事訴訟法や専門的な知識が豊富だから裁判を有利に導くことができるわけではありません。自分に有利な事実認定をしてもらうためにどのような証拠が必要なのか、客観的な証拠がない場合は証人尋問の出来不出来に影響されるので尋問技術も重要です。また、裁判の前半は書面や弁論準備で裁判官を説得する作業が中心となるので、いかに簡潔で分かり易く説得的なロジックを展開できるかが重要です。
弁護士の人数は飛躍的に増加していますが、裁判所における民事訴訟の件数は特定分野(過払いや交通事故)を除けば増えていません(むしろ減少傾向です)。この統計結果が何を意味するかというと、過払いや交通事故のような定型的な裁判以外に裁判の経験がない(ないしは乏しい)弁護士が非常に増えているということです。また、都内の事務所は専門特化が非常に進んでおり、何でも屋的な事務所は淘汰されつつあります。
当事務所は、これまで民事訴訟を中心とした紛争解決業務を中心として参りました。紛争に巻き込まれた当事者の方々の心労や精神的なストレスは計り知れないものがあります。当事務所は、そのような方々を精神的にサポートしつつ、より有利な解決に導くことができるように努めて参りました。相手が巨大企業であったり、有名な法律事務所の弁護士が多数で相手方となることはよくありますが、怯むことなく闘っていきますので、そのような事務所をお望みの方は是非ご相談下さい。
中小企業を巡る裁判実務(実践編)
1 裁判の準備
① 原告側
訴状の作成、提出予定の証拠の収集及び精査が中心となります。
訴状は、原告側における裁判の「顔」となります。したがって、どこまで書くのか、どのように書くのかが非常に重要で、裁判官が読んだ際の印象に大きな影響を与えます。裁判官によっては、訴状と答弁書を読んだ時点で事件の筋が分かるという人もいる位です。
よく勘違いされている方がいるのですが、自分の言いたいことをそのまま書いても裁判官には伝わりません。大事なのは何百件もの事件を抱えて非常に忙しい裁判官の立場に立って事件の「顔」となる部分を理解してもらうように書くことです。また、要件事実を意識して書いていない訴状や何が言いたいのか分からない訴状はそれだけで印象が悪くなります。
さらに、訴状の提出段階で、いかなる証拠を提出するかも重要です。裁判官は、基本的に客観的な証拠で事実認定しますので、あるべき証拠が提出されていないとマイナス印象を持たれます。また、相手方の反応を見てから提出した方が良いような弾劾的な書証はあえて訴状段階で提出せず、後から提出することも検討する必要があります。
② 被告側
いきなり裁判所から訴状が届くことも稀にはありますが、多くはその前に弁護士名で内容証明郵便が届く等の前兆がありますので、その前兆段階で、訴状が届いた段階で依頼できる弁護士を探しておいた方が良いです。訴状が届いた段階では、答弁書の提出時期と第1回口頭弁論期日が指定されますので、時間的にタイトな対応を余儀なくされます。なので訴状が届いて慌てないように事前に準備しておいた方が良いでしょう。
その際、弁護士選びは非常に重要です。できれば複数の弁護士と面談して適切な弁護士を選びましょう。弁護士は、紹介でもインターネットでも見つけられますが、複数で担当するのか単独か、担当する弁護士のキャリアはどの程度か、事件についてどのような見通しと戦術を考えているのか位は確認した方が良いです。裁判は、依頼者と弁護士が共同戦線を張るようなものなので、信頼できない弁護士や相性が悪い弁護士に依頼すると、裁判以外の部分でストレスを溜めることになります。
また、裁判で良い結果を得るには証拠が非常に重要なので証拠収集も早目に始めた方が良いです。
2 裁判中の準備(前半戦)
裁判の前半は、弁論や弁論準備といって、書面でのやりとりが中心となります。この書面の内容及び提出時期も業務多忙な裁判官の立場に立って準備する必要があります。
これもよくあるのですが、非常に長い書面、何が言いたいか分からない書面、内容がよく整理されていない書面は、自分の言いたいことを理解されないばかりか、裁判官に対して非常に悪い印象を与えることになります。無駄な言葉や無駄な文章を極力避けて簡潔明瞭な書面を心がけるべきです。
また、書面の提出期限が切られているのに、それを過ぎて期日ぎりぎりに提出するのも裁判官の印象を悪くします。ある裁判官は「期日の1週間前までに提出される書面は内容的にも良い書面であることが多い」と仰っています。
また、文章だけではなかなかポイントが伝わらない場合、弁論準備手続きを使って、口頭でも十分説明すべきです。この点、キャリアの浅い弁護士ですと、裁判官に気後れしたり、説明能力が劣っていて、裁判官に上手く説明できないことが多々あります。司法試験自体が殆ど書面試験なので、実務経験をある程度積まないと口頭での説明能力が身につかないのです。また、裁判は、裁判官の微妙な発言からその心証を汲み取れないと良い結果を得るのが困難なのですが、この点もキャリアの浅い弁護士では困難です。同じ事件でも担当弁護士によって結果が違ってくるのはこのような微妙な差異からなのです。
3 裁判中の準備(後半戦)
裁判の後半は、証拠調べ(証人尋問)が行われ、その後に判決か和解成立に向けて準備が行われます。
証拠調べにおいては事前の準備が非常に大切です。殆どの方が裁判は初めてでしょうから、何度かリハーサルを繰り返して本番に臨む必要があります。そして証拠調べの準備においては尋問事項を作成した上でリハーサルを行う必要があります。尋問の出来不出来が結果に影響しないような事件もないわけではありませんが、尋問によって裁判官の事件に対する見方が大きく変わることがあるのも事実です。また、相手方証人に対する反対尋問は弁護士としての力量の差異が大きく出る所です。
証人尋問が終わると、あとは判決か和解に向けて最終局面になります。判決の場合は、双方が最終準備書面を提出して終結するのが一般的です。証人尋問後に和解手続が行われることはよくありますが、この段階での和解は裁判官の心証がかなり固まっている段階なので、判決になった場合を予想しながら行う必要があります。和解すべきか、判決を貰うべきか、和解手続の中でどのような話をすべきかも弁護士の力量が大きく物を言う部分です。
4 控訴
一審で勝訴しても控訴されることがありますし、一審で敗訴しても控訴することができます。事実認定の審理は控訴審までなので、事実認定に不服がある場合、控訴審が最後になります。ただし、最近の最高裁の判例を見ていますと、明らかに結論が間違っていると思われるケースは、事実認定の問題なのか法的評価の問題なのか微妙であっても破棄しているようですので、事実認定の問題なのか法的評価の問題なのかは決定的ではないかもしれません。
また、控訴審は、控訴理由書とそれに対する反論書を第1回期日前に提出し、基本的には第1回期日で終結することが多いことから、短期決戦のつもりで準備する必要があります。
5 上告
事実認定に不満がある程度では、上告が受理もされずに終わってしまいますので、上告すべきか否かは法律審である上告審において上告理由が書けるかどうかで判断すべきです。三審制であるからといって勢いで上告しても結局上告も受理されずに終わってしまうケースが圧倒的に多いのです。したがって、上告すべきか否かは、過去の判決例を参考に、上告理由があるか否かで判断すべきであり、控訴と同じ考えで上告しても意味がありません。
6 まとめ
裁判は、訴状や準備書面の作成、弁論準備期日における説明、証人尋問の巧拙、和解か判決かの読みといったテクニック的な要素で結果が大きく違ってきてしまう点において、担当弁護士の力量の差が大きく出る分野です。そして、裁判実務は経験によって磨かれるものであり、争いの激しい事件や証人尋問まで行う事件をどれだけこなしてきたかで弁護士の力量が違ってきます。
是非、担当弁護士選びに失敗しないように慎重に弁護士を選んでいただきたいと考えます。