はじめに
「国際離婚」とは,日本人と中国人等の外国人の夫婦間の離婚をいいます。
日本人同士の離婚の場合は,まず,夫婦間での協議で離婚の合意ができないかどうか「協議離婚」を行い,協議が整わない場合には,裁判所で「調停離婚」「審判離婚」「裁判離婚」のいずれかの方法によって離婚を行います。
しかし,国際離婚の場合には,日本人夫婦の場合と異なり,そもそも日本の裁判所で申立てを受け付けてもらえなかったり,受け付けてもらえる場合であっても,離婚の可否は日本法で,養育費については中国法などと,法的な問題ごとに異なる国の法律が適用されるという問題が生じます。
下記の2つのケースを用いて説明します。
【ケース1】
日本人夫,中国人妻,日本人の子が,日本で生活をしているケース。中国人妻が日本人夫と離婚をしたいとき。
【ケース2】
中国人夫,日本人妻が日本で生活をしていたが,夫が妻を残したまま,子だけを連れて中国に帰って日本に戻ってこないケース。日本人妻が中国人夫と離婚をしたいとき。
国際裁判管轄の問題
「国際裁判管轄」とは,国際離婚等の国際的な要素を含む裁判の際に,どの国の裁判所に管轄があるかという問題です。国際裁判管轄が日本に認められない場合には,日本の裁判所に離婚手続を申し立てても,却下,すなわち門前払いの判決になります。
日本に国際裁判管轄が認められるかどうかの基準は,最高裁判所の判例(最大判昭和39年3月25日,最判平成8年6月24日)で決まっており,原則として,①相手方の住所地が日本国内にある場合,例外的に,②相手方に遺棄された場合,③相手方が行方不明な場合,その他これに準ずる場合にのみ相手方の住所が日本国内になくても日本国内に国際裁判管轄が認められます。
【ケース1】であれば,相手方の日本人夫は日本に住所地があるので,上記①の理由で,日本に国際裁判管轄が認められます。【ケース2】であれば,相手方の中国人夫は日本に住所地がないので,原則としては日本に国際裁判管轄が認められません。しかしながら,夫が妻を遺棄して出国したものとして,例外的に上記②の理由で,日本に国際裁判管轄が認められます。
準拠法の問題
「準拠法」の問題とは,国際的な要素を含む法律問題について,どの国の法律を適用して解決するかという問題です。これは,日本では,「法の適用に関する通則法」という法律等によって,決められています。
例えば,離婚の可否は,夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは,日本法によるので(法の適用に関する通則法27条ただし書),【ケース1】【ケース2】のいずれも日本法が適用されます。しかし,養育費の問題は,原則として扶養権利者(つまり子)の常居所地法による(扶養義務の準拠法に関する法律2条1項)ので,【ケース1】では,日本法が適用されますが,【ケース2】では,原則として,中国法が適用されることになります。このように,日本の裁判所で【ケース2】の調停等を行う場合,離婚の可否は日本法で,養育費については中国法で判断されるということになります。
このように,日本人と中国人が国際離婚を行う場合には,日本人同士の離婚とは異なって,そもそも日本の裁判所で手続きができるのか,できるとしても,どの問題についてどの国の法律が適用されるのかという複雑な問題が生じるので,専門の弁護士に是非相談して下さい。