第1 国際相続の準拠法と国際裁判管轄
1 準拠法(法の適用に関する通則法36条)
日本に住んでいる夫婦のいずれかが中国人の場合には、相続の際に、日本の法律が適用されるか、中国の法律が適用されるかという問題が生じます。準拠法の問題です。
この問題を決める基準について、日本の「法の適用に関する通則法」36条により、「被相続人の本国法」と定められています。つまり、亡くなった方の国の法律です。
他方、亡くなった方が中国人の場合には、中国の「民法通則」第149条及び「相続法」第36条の規定により、「動産は被相続人の死亡時における常住地の法律を適用し、不動産は不動産所在地の法律を適用する。」
従って、この場合は、最終的に日本の法律を適用して相続することになります(不動産が日本にある場合)。
2 国際裁判管轄(民事訴訟法3条の3・12〜13号)
相続について争いが生じた場合は、調停や裁判で裁判所の手続を利用することになります。国際相続の場合は,日本の裁判所を利用できるかどうかという問題が生じます。国際裁判管轄の問題です。
相続開始時(つまり被相続人が亡くなった時点)の被相続人(亡くなった方)の住所が日本国内にあるときだけ、日本の裁判所で、調停や裁判等の手続を行うことができます。例えば,中国人夫と日本人妻の家族が,日本を住所として生活をしていて,中国人夫が亡くなった場合には,準拠法は被相続人の本国法である中国法になりますが,住所は日本ですから,日本に国際裁判管轄があるので,日本の裁判所を利用できます。この場合は,日本の裁判所で,中国の相続法に基づいて,裁判や調停等が行われることになります。日本の裁判所で,中国の法律に基づいて裁判や調停が行われるというと,何か不思議な感じがするかもしれませんが,このようなルールになっています。
第2 日本の相続法の概要
1 このように、中国人の方でも、日本人の配偶者が亡くなった場合には、日本の法律で相続が行われるので、日本の相続を知っておく必要があります。相続が発生した後の概要を紹介します。
2 まず、相続は、人が死亡した場合に、自動的に生じます。その後の手続は、遺言書が残されているかどうかで大きく変わります。
⑴ 遺言(書)がない場合は、だれがどの財産を相続するか、遺産分割の協議を行うことになります。遺産分割の協議を行わない場合は、法定相続人が、法定相続分に応じて遺産を相続します。
【法定相続人とは】
①配偶者(夫が死亡した場合は妻、妻が死亡した場合は夫)は常に相続人です。
②配偶者に加えて、子供(いない場合は孫)が相続人になります。
③子供や孫がいない場合にだけ、親(いない場合は祖父母)が相続人になります。
④子供らも親らもいない場合にだけ、兄弟姉妹またはその子が相続人になります。
【法定相続分とは】
法定相続人毎にどれだけの遺産を相続するかを決める割合です。
①配偶者しか法定相続人がいない場合は、配偶者が法定相続分全部です
②配偶者と子供が相続人の場合は、配偶者(2分の1):子供(2分の1)です。
③配偶者と親が相続人の場合は、配偶者(3分の2):親(3分の1)です。
④配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、配偶者(4分の3):兄弟姉妹(4分の1)です。
【遺産分割とは】
誰がどのように遺産を相続するかを協議で決めることです。
①相続人が誰かを確定し、②遺産の範囲を確定し、③不動産等の遺産について評価額を確認します。これで、遺産が全部でいくらかという金額で分かります。そして、④法定相続分に基づいて、各相続人の遺産の取得額が決まります(特別受益、寄与分という概念で調整されることもあります)。⑤④の取得額に基づいて、各相続人で遺産を分割します。分割の方法には、現物そのものを分けることもあれば、遺産を売却して金銭を分ける等の方法もあります。
②遺言書がある場合は、その遺言の内容によって、変化します。
ア「相続させる遺言」、例えば「長男に一切の財産を相続させる。」「長男に一切の不動産を、妻に預貯金を相続させる。」というような内容の遺言が残っている場合には、遺留分の侵害があるかどうかを確認し、遺留分減殺請求を行う必要があります。
イ「相続分を指定する遺言」、例えば「妻に半分、長男に残り半分を相続させ、長女には相続させない。」「妻、長男、長女で3分の1ずつ相続させる。」というような内容の遺言が残っている場合には、その指定された相続分が遺留分割合を侵害されているか否かを確認する必要があり、遺留分侵害があれば遺留分減殺請求をおこなったうえで、具体的に誰がどの遺産を相続するか遺産分割を協議します。
【遺留分、遺留分減殺請求とは】
1 遺留分とは
兄弟姉妹を除く相続人(つまり、配偶者及び子・孫又は親)に対して、遺産の一定割合を保障する制度です。この制度があるため、例えば、被相続人と配偶者の仲が悪くても、配偶者が一切相続を受けられないという事態を防ぐことができます。
2 遺留分の計算
法定相続人が誰かによって、変わります。
例えば、
配偶者と子が相続人になる場合 配偶者4分の1、子4分の1
配偶者と親が相続人になる場合 配偶者3分の1、親6分の1
などです。
3 遺留分減殺請求とは
遺留分が侵害されている場合、例えば、相続人が複数いるのに、全ての遺産が一人の相続人に相続させるという遺言が残っている場合等は、遺留分侵害を受けている相続人は遺留分を侵害している相続人に対して遺留分に相当する額を渡すように請求することができます。具体的な遺留分侵害の有無を判断する際には、被相続人が贈与した財産や債務、特別受益等を調査する必要があります。遺留分減殺請求ができるのは、相続の開始(つまり被相続人の死亡)又は遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから1年という期間制限があるので注意が必要です。