交通事故に遭うと,加害者の場合,犯罪行為として逮捕,起訴されることもありますし,民事上の多額の賠償責任を負うことになります。また,被害者になられた場合,重い後遺症を負ったり,死亡事故に場合,遺族が賠償請求などを行うことになります。
日本において交通事故に遭ってしまった場合,中国人の方でも同じような対応が必要になってきます。すなわち,交通事故の場合,不法行為地の法律(日本で交通事故に遭った場合,日本)で処理されることになります。
加害者側
民事上の責任
交通事故は,過失により他人の生命・身体・財産を害した事件ということになりますので,加害者は,被害者(死亡している場合には被害者遺族)に対し,その損害を賠償しなければなりません。
賠償の対象には,「被害者が通常に働いていたら生涯で得られたはずの収入」も含まれますので,賠償額は,特に死亡事件の場合には,数千万円にのぼり,場合によっては億に達することもあります。このような莫大な損害賠償責任に備えるものが,自動車損害賠償責任保険や,任意保険です。
自動車損害賠償責任保険とは,法律に基づき,自動車やバイクの全ての運転者への加入が義務づけられている保険のことで,外国人も加入が義務づけられています。
この保険に加入していれば,被害者1人につき,死亡の場合は3000万円,後遺障害がある場合には4000万円,傷害の場合は120万円まで保険でカバーできます。しかし,交通事故を起こしてしまった場合の損害賠償金額は,通常は,自賠責ではカバーしきれません。このような場合にそなえるのが,任意保険です。
保険の内容は「約款」で決まりますが,複雑な内容の場合は専門の弁護士にご相談下さい。
刑事上の責任
交通事故で被害者に怪我を負わせたり,死亡させてしまった場合には,通常は「自動車運転過失致死傷罪」(7年以下の懲役または禁錮,500万円以下の罰金),一定以上の危険な運転により被害者を死傷させた場合には「危険運転致死傷罪」(傷害の場合は15年以下の懲役,死亡の場合は1年以上20年以下の懲役)で処罰されます。
交通事故は犯罪であり,刑事事件ですので,手続は他の刑事事件と同じです。通報により警察が来た段階で現行犯逮捕される場合もありますし,警察署まで任意同行した上で通常逮捕されることもあります。逮捕されると最長72時間は身柄が拘束されます。
その後,勾留されれば,更に,10日~20日間身柄が拘束されます。このように,逮捕・拘留されることを「身柄を拘束される」と言います。「身柄を拘束される」と外部と遮断されますので,日常生活に支障を来たしたり,自分の言い分を通すことが難しくなります。
そのような場合は,直ちに専門の弁護士に相談,依頼して弁護する必要があります。そして,身柄を拘束されている間に,検察官が起訴するか,起訴しないか(不起訴処分)を決めます。一旦,起訴されてしまうと,刑事裁判になってしまい,日本の刑事裁判の場合,99%以上の有罪率なので非常に負担が重くなります(詳細は刑事事件のページをご覧下さい)。
交通事故で一番争いになるのは,「加害者に過失があったのか」という点です。「過失」とは,簡単に言うと,結果を予見できて,かつ回避できたのに,必要な措置を取らなかったことを言います。過失の有無については多くの裁判例があるので,専門の弁護士にご相談下さい。なお,前述のとおり,日本の刑事裁判の有罪率は99%以上ですが,交通事故は,比較的無罪が多いです。
また,交通事故を起こした場合には,その処分がどのようなものになるかによって,日本における在留資格にも影響します。
被害者側
民事上の請求
交通事故の被害者となった場合,最も重要なのが,被害の回復です。日本では,交通事故の損害額は,一定の基準に基づいて計算することになっていますが,ⅰ自賠責保険の基準,ⅱ任意保険会社の基準,ⅲ裁判所の基準の3つがあるといわれています。
通常,加害者側には保険会社がついて,上記のⅱの基準で解決しようとします。よって,本当に賠償を受けられる金額が保険会社の提示する金額で妥当か否かを確かめるためにも専門の弁護士に相談することをお勧めします。なお,賠償を受けるための手続には,示談交渉のほか,いわゆるADR手続(裁判外紛争解決手続)による方法,民事訴訟による方法があります。民事訴訟となると,事案にもよりますが,1年以上かかると思った方が良いでしょう。
刑事上の責任
交通事故は犯罪行為であり,事故に遭った被害者は,犯罪被害者ということになります。捜査を進める中で事故状況を警察官や検察官に説明しなければならない場面もありますし,実況見分への立会いなども行います。裁判になったときに証人として法廷で証言することもあります。